前を向いて行こう







 3年1組に、転校生がやってきた。

 郷子先生は仲良くしなさいって言ってたけど、そんなことは聴いちゃいない子って居るんだよな。

 案の定、転校生くん、クラスで一番乱暴な、吉田くんにからまれているよ。

「おい、転校生。ここに来た以上は、おれ様の子分になるんだぞ」

 こいつは何時もこう。

 自分は何にもしないで、ほかの子達を子分にしてふんぞり返ってる。

 逆らうと拳骨が飛んでくるから、子分の子供たちは逆らわない。

 今も、腰巾着の2人を後ろに引き連れて、腕組みして見せている。

「……」

 転校生くんは竦み上がっているよ、しょうがないね、吉田くんはみんなより頭ひとつは大きいから、すごく怖そうに見えるんだ。

「文句は無いな?」

 勝ち誇って反り返る吉田くん、転校生くん、これで良いの?

 おや。震えているけど、小さく首を振っている。

 ただ気弱な奴ではないみたいだ。

 でも、小さな抵抗は、吉田くんの機嫌を悪くしたらしい。

 むっとして、転校生くんの胸倉を掴みあげた。

「なんだぁ?逆らう気かぁ?」

 おーい。誰か助けてあげなよ。

「やめろよ。吉田くん」

 勇敢な正義漢くんが居たよ。転校生くんの後ろの席に座っていた男の子が立ちあがった。

「郷子先生が、仲良くしろって言ったじゃないか」

 そう、その通り。

 吉田くん、怒鳴り返すかと思ったら、ちょっとたじろいでいる。

「雪介か・・・ちっ。お節介」

 吉田くんは、案外あっさりと手を離して、後を向いた。

「正義の味方のお出ましだ。けっ、つまんねーの」

 吉田くんはそのまま行ってしまった。

 転校生くん、ほっとしているね。

 冷や汗なんかを拭いていると、雪介くんがやってきた。

「えっとー。鳥飼仁くんだったよね。ぼくは鵺野雪介。よろしくね」

 にっこりと笑う雪介くん。

 げじげじ眉毛とぼさぼさ頭の男の子。

 黒くて大きな目印象的。

 そうか、転校生くん。君は鳥飼仁くんだったか。

 では、仁くん。君は雪介くんのにこにこに引きこまれて笑っているね。君の笑顔もなかなか可愛いよ。

 さあ、君も返事をするんだ。

「よ…よろしく。助けてくれてありがとう」

 よしよし、ちゃんと言えたね。お礼も添えて完璧だ。

 雪介くんはふるふると首をふる。

「何でも無いよあれくらい。それに、ああ見えても吉田くんは優しい子なんだよ。悪く思わないでね」

「うん…」

 最初のうちは、トラブルがあるものさ。めげるな仁くん。それに、雪介くんは頼りになる子みたいだよ。

「お昼休みには、ぼくが学校を案内しようか?どう?」

 やさしいね、仁くんも嬉しそうだ。

 おや、チャイムが鳴っているよ。2時間目の始まりだね。











 さて、仁くんのびっくりは、3時間目に始まった。

 今日は暑い日でさ、窓を開けていても、風一つ入ってこない。ムシムシしていて、じっとしていても汗が出てくるんだ。

 仁くんの後ろの席、つまり雪介くんが椅子に座ったまま、どたんと倒れたんだ。

 どうした雪介くん!?

 体の弱い子には見えなかったんだけど、顔を真っ赤にして苦しそうだ。

 駆け寄ってきた郷子先生に抱き起こされて、雪介くんはうっすらと目を開けた。

「せんせぇ…」

「大丈夫?雪介くん」

 どうにか椅子を元に戻して座った雪介くんは、辛そうに郷子先生を見ているよ。

 郷子先生は、若くてしゃっきりした先生でさ、男勝りで、カッコ良いんだ。(胸は無いけどね…)

 しばらく腕組みしていた郷子先生は、タメイキひとつついて頷いた。

「しょうがないわね、良いわよ、雪介くん」

 途端にクラス全員が飛び上がって喜んだ。

「やった〜〜!!」

「雪介!頼む!!」

「派手にやってェ〜〜!!!」

 あの吉田くんや、女の子達までが喜んでいる。

 仁くん、何が何だか判らないね、まぁ見ていなよ。

 さっきまでフラフラだった雪介くん、にっこりと立ちあがって、両手を大きく振り上げた。

「せーのっ、えーーい!!!」

 飛び上がるみたいにして両手を振ると…

 ピキピキピーン

 あら不思議。天井が凍り付いてしまったよ。

 教室はさながら氷の鍾乳洞。

 凍っているのは天井だけだから、ひんやりした空気が下りてきて、丁度良いくらいに涼しくなったね、これで気持ち良く過ごせるよ。

「雪ちゃんサイコ〜♪」

「さっすが〜〜人間クーラー」

「あんがと〜〜♪」

 クラスのみんなから口々にお誉めの言葉。

 雪介くん、テヘっと笑っている。

 仁くん。口はあんぐり、お目々は点。びっくりしすぎて訳わかんないって感じだね。

 誰か説明してやってよ、この状況。

「びっくりした?仁くん」

 お、出てきたね。クラスのご意見番。

 仁くんの隣に座っていた男の子が、ニヤリ、と笑ってこっちを向いた。

「う…うん…」

「あ、俺、光一。谷山光一だ。よろしくな」

 真っ黒な顔に、1本前歯の抜けた口で、にぱっと笑う。見るからにスポーツ少年って感じだね。

 そういえば、さっき、教室に帰ってくるなり、吉田くんに、仁くんにからんだ事を、怒鳴りに行っていた元気者だ。

「あのさ、実は雪介のやつ、半分妖怪なんだぜ」

「え…?」

「あいつのかーちゃん雪女なんだぜ。だから、あいつも暑いのに弱いんだ」

「そうなのよ!でも、こうやって氷を出してくれるから、あたし達も涼しくなれるのよ」

 通路の向こうから、首を伸ばして来た女の子。カールしたポニーテールが可愛いんだ。

 学級委員の西本恵子ちゃん。はじめに紹介されたから、仁くんも憶えてる。

「なんだよ恵子。おれが説明してんだぜ」

 光一くんが口を尖らせると、恵子ちゃんは、ンペっと舌を出して見せる。

「へーんだ。あんたみたいな筋肉脳味噌に教えられたら、仁くん、余計わかんなくなるわよーだ」

「んだとぉ、この口先女!」

 二人はけんか友達なんだよ、仁くんを挟んで、舌戦が始まった。

 言い合っていると、後ろから雪介くんが、ちょんちょんって光一くんの背中をつつく。

「雪介、いま忙しいんだ」

「でも…前見て…」

 面倒臭そうに、光一くんが前を見ると……いたよ、卿子先生が。

 腰に両手を当てて、仁王立ちになって、睨んでいる。

「あ…」

「ヤバ…」

 二人が硬直する。

 卿子先生はにっこり笑った。恐いんだ、この笑顔。

「あんたたち、今は何してる時かしら?」

「はい…算数です」

「よくできました」

 ポコン。パコン。

 丸めた教科書で、頭をはたくと、黒板に書かれた問題を指差した。

「じゃぁ、あの問題判るわね、前に行って、解いてみて」

「ぐぇっ」

「うわ…」

 二人はしぶしぶ立ちあがった。









 さて、仁くんのびっくりは、まだ続いているんだ、これが。

「えーーっ!!卿子先生って結婚してるんだ」

「そう、しかも、旦那さんって…」

 光一くんがにやりとして、雪介くんと肯きあう。そして、声をそろえて。

「マリノスの立野選手!!」

「えー!!!」

「びっくりした?」

「うん!うん!」

 仁くんこくこく頷いてる。

「だろ〜?しかも、それだけじゃぁねーんだぜ」

「な…何?」

 思わず喉をごくん。

「マリノス三羽鴉の、北村、風間、立野。三人とも、この童守小の出身なんだぜ」

 仁くん、やっぱり目が点。

「す…すごいね〜」

 光一くん得意そう。

「だろう?三人は、ここのサッカー部のOBで…・」



「男子、また言ってるわよ、童守自慢」

 飽きれた声で言ったのは恵子ちゃん。

 黒板消しを叩きながら、今日の日直の女の子がくすくす笑う。

「仁くん、すっかり光一くん達に取られちゃったわね」

「ほんとよ、色々聞きたい事だってあるのに、スポーツオタクがでしゃばって」

 恵子ちゃんがぶつぶつ言うと、女の子は又、くすくす笑う。

 この子は浦浜天音ちやん。良く笑うんだ。

 ブラウンマッシュルームみたいな薄茶の髪と目で、色がすっごく白い。実はクラス1の美少女さ。ポイント高いよ。

「いいじゃない、男子だって、じきに自慢する事無くなるわよ」

 恵子ちゃんは首を振る。

「でも、最大の自慢を先に言われたら、たまんないわよ」

 憤然と口を尖らせると、天音ちゃんが首をかしげる。

「…でも、あれって自慢なのかしら?七不思議が、他の学校より多いってだけでしょ?」

「何言ってんの、童守小の自慢は、妖怪親子よ!!」

 踏ん反り返って恵子ちゃんが言うと、天音ちゃんはてへっと笑う。

「あ、そっかー…って、やっぱり自慢なのかな…?あんなのも…」

 天音ちゃんが首を捻る妖怪親子ってのは…と、チャイムが鳴ってるや、又今度ね。











 放課後、箒を振りまわしながら、恵子ちゃんが熱演しているよ。どうやら仁くんを男子からぶん取ったらしい。

 彼女の演題は、童守小の歩き方。

「だからね、童守小は他の学校と違って、気を付けていないと、七不思議が本当になっちゃっうのよ!!」

 横で天音ちゃんが真顔で頷いている。

 仁くん真っ青だ。

「おいよ〜恵子。そんな事話したら、明日から、仁の奴、学校来るの怖くなっちまうぜ」

 光一くんが文句を言う。

 実は待っていたんだな、恵子ちゃんはそのセリフ。

 にやっと笑って、箒を光一くんの鼻先につきつける。

「大丈夫。そん時には、妖怪親子の出番よ!!」

「恵子…おめーな…」

 光一くんが呆れている。

「この童守小には、頼りになる人が居るのよ!ねー雪介?」

 いきなり聞かれて、雪介くん、困ったみたいに頷いている。

「う…うん…あれ?」

 何を見つけたんだ?窓の方を見て、雪介くんが驚いている。

「ちょっとご免!!」

 そのまま教室を飛び出すと、走って行ってしまった。

 残ったみんなは、雪介君が何を見つけたのかって、校庭を見たよ。そしたら、大きな包みを持った女の人が、歩いてくるところだった。

「おや〜〜あれは?」

 校舎から飛び出した雪介くんが、女の人に走っていく。

 恵子ちゃんがとび上がって喜んだ。

「でたーー!!本物!!」

「え?」

 何が出たって?

「仁くん!!あれが噂の雪女よ!!」

 雪女って言ったら、白い着物着てて、吹雪の中に立っている怖〜い妖怪。

 でもさ、雪介くんと歩き出した女の人は、高校生くらいのお姉さんで、すっごく綺麗な人なんだ、着ている物だって普通の服で、ヒトデみたいな模様のエプロンをつけている。

「嘘だー、普通のお姉さんだよ」

 仁くん、からかわれたと思ったね。

 だけど、光一君も恵子ちゃんも天音ちゃんも、ついでに光一くんの後ろで胡座をかいていた男の子、大山透くんまで、にや〜〜っと笑うんだ。

「こいよ、妖怪一家が見られるぜ」

 おいおい、一家かよ…

 訳わかんないうちに、玄関に行くと、雪介くんがスリッパ持って走っている。

「おーい、雪介、お前のかーちゃんどうしたんだ?」

 光一くんが聞くと、雪介くんがにこっと笑った。

「とーさんに差し入れ、今日日直だから」

「そっかー、とーちゃん呼んできてやろうか?」

「いいよ、もう来たもん」

 雪介くんの指指す方から、仁くんも職員室で見た、男の先生が歩いて来るところだった。

 背が高くて、やせているんだけど、がっしりして見える先生。確か郷子先生の隣に座ってたっけね。

 おや、仁くん、変なことが気になってるね、あの先生、何で片っぽだけ手袋をしているのかなって?

 これも名物なんだけど…どうせ誰かが教えてくれるよ。

 お姉さんが包みを持って、先生に駆け寄っていく。

 雪介くんも、そばに行って、楽しそうだね。

 恵子ちゃんが言う。

「あれが、童守小名物の、妖怪一家よ。6−3の鵺野先生と、奥さんのゆきめさん、息子の雪介。初日に一家揃い踏みが見られるなんて、あんた運が良いわ」

 訳の判らない感心の仕方をするね。

「良いよな〜雪女って老けねーから、かーちゃん若いまんまでさ、俺ん家なんて、ババァだぜ」

 …光一くん…

「ゆっきーめさーん」

「ぬ〜べ〜。ヒューヒュー。愛妻弁当?」

「今日も熱いねー」

 6年生が声をかけていく。

 雪介くんのお母さんは、「ハーイ」なんて、手を振っているよ。

 でも先生は照れまくって、生徒達を追い払っているし、雪介くんは笑い転げている。

……ちくん……

 あいたっ。何だ?

 仁くんの心に、何かが刺さった。

 どうしたんだ仁くん。複雑な顔して妖怪一家…もとい、鵺野一家を見ているぞ。

「…」

 誰にも聞こえない小さな声で、仁くんが呟く。

…ずるいや………何だそれ?







 とにかく、その日から、仁くんにとって、雪介くんは、特別な存在になったんだ。

 え?どう特別かって?

 …あんまし教えたかないけど、仁くんのある日の日記だ。

「今日、課外授業で、工場見学に、行った。雪介くんは、郷子先生の言うことを良く聞いて、良い子ぶっていた」

………

「今日、雪介くん達が集まって、女子のパンツの柄当てをしていて、氷で転ばして、確かめていた。恵子ちゃん達が怒って、郷子先生に言いつけたので、廊下に立たされた。僕は、トンでもない不良だと思った」

………

「雪介くんは、勉強が良く出来る。きっと家で、先生のお父さんに教えてもらっているんだ。ずるいと思う」



やばいぞ、これ。
 仁くんの心の中には、黒いヘビが眠っているよ…

 これは、童守小に転校してくる前から住み着いているんだけど…

 誰か追い出してくれないかな…?

 どうしてこんなことにって?

 その理由は、日記の始めの方に書いてあるんだけど……

…教えないよ。







「いててて…かーさん、もっと優しくやってくれ…」

 お父さんが悲鳴を上げてるよ。

 全身アザと切り傷だらけ、シャツもズボンもぼろぼろだ。

「とーさん。今日の悪霊って、強かったの?」

 雪介くんが聞くと、ちょっと動きの止まったお父さん、慌てて大きく肯いた。

「ああ、強敵だったぞ」

「童守寺に悪霊の憑いたお人形が、持ってこられたんでしょう?」

「ああ、これが手強い奴でな、現世への未練が断切れずに、こっちの説得には応じない、しかし、鬼の手で消滅させるのは哀れすぎる。経文で何とか成仏させようと、いででで…」

 お母さん、傷口にたっぷりとオキシドールをかけている。

 こめかみに、さりげなく青筋なんか浮かべちゃってて、おまけに、今日のお母さんは、白い留袖の雪女バージョン…何かやばい感じ……

「嘘ばっかり、子供に吹き込まないでください…聞きましたよ…和尚さんに…」

「う…」

「取り憑いていた悪霊って、露出狂のストリッパーで、鼻の下を伸ばして除霊しようとして、爪でひっかかれたって…おまけに、持ってきたのが、巨乳の美女で、すっかり気が逸れていて、避けられなかったって…」

「い…いや…その…」

 たじろぐお父さんを、怒りの冷気を漲らせたお母さんが睨み付ける。

「あなたって人は…私というものが在りながら…雪介っていう子供まで居るのに…!!」

「ま…まて!落ち着け、ゆきめ。腹の子に障るぞ!!」

お父さんが後じさる。

「知りません!!あなたの馬鹿ぁ!!」

 パキーーン

 凍りついたお父さんに、肩で息をしながら、お母さんが冷たく言い放つ。

「暫くそこで反省しててください」

 両親のやり取りを、呆れ顔で見ていた雪介くんは、ぷんすか怒ったお母さんが、台所に行ってしまうと、お父さんに、にじり寄ってみる。

「とーさん、…大丈夫?」

一応心配してみる.と、お父さんは凍りの中で、苦笑していた。

「いやあ…あはははは…」

 お父さん、面目丸つぶれだね。

 何時もだと、ここで笑い転げる雪介くん、今日はじっと黙り込んでしまったよ。

「どうした?雪介」

 たずねられて、ちょっと首をかしげる。

 らしくないよな、何でも話す、元気な子が君なのにさ。

「学校で、何かあったのか?」

 途端に雪介くん、大きく首を振った。

「違うよ!もう、何もないよ…たださ…」

「ただ?」

 少しためらってから、話すことに決めたらしい。

「あのね、ぼくは半分妖怪だから、こんな能力があるのは当たり前だし、お化けなのも本当だと、思うんだ。でも、普通の人間なのに、変な力があったり、お化けって言われたら、どんな気持ちかな?って……」

 お父さんは、じっと雪介くんを見つめている。

 その視線に促されて、先を続ける。

「ぼく、妖怪の人たち好きだよ、かーさんも大好きだよ」

「ああ、知ってるよ」

「でもさ…人間って、妖怪じゃない方が良いみたいだし……変な力を、持ってない方がいいみたいだし…うーーんと……」

 言葉を切って、何が言いたいのかを考える。

「あのね、とーさんは、子供の時から、力があったんでしょ?どうだった?嫌だった?どんな力なのか、友達に話した?」

 唐突に聞かれて、お父さんは眉を寄せた。

「う…ん。そうだな、はじめは嫌だったよ。」

 お父さんの言葉に、少し俯いてしまう。

「そうだね、やっぱり嫌だよね」

「だがな、この力が人の役にたてると知ってからは、もっと欲しいって思ったぞ」

 雪介くん、目をぱちくり。

「そうなの?」

「ああ、美奈子先生に、教えてもらってからな」

 にっこり笑うお父さんに、雪介くんもにっこりした。

「じゃあ、力が誰かの役に立つって判れば、辛くないし、嫌じゃ無くなるね?」

「ああ」

「ぼく、待ってみるよ。きっとあの子も、辛くなくなるよ」

 一人で納得している息子に、お父さんは、優しい微笑みを向けている。

「雪介。こっちへおいで」

「うん!」

 元気に答えて、飛びつこうとしたけれど、お父さんは氷漬けだ。

 ちらっと台所を見る。

「かーさん、ごめん」

 小声で謝って、氷に触ると、みるまに氷が融けていく。畳に後も残さずに、消えてしまった。

「あー寒かった」

 伸びをするお父さんの膝に、雪介くんは、ぴょんと跳び乗る。

 お父さんの腕が体を包んでぎゅっと抱きしめると、雪介くんもぎゅっとしがみつき返す。

 ちょっとだけそうやっていて、気が済んだ雪介くんは、ぴょんと立ち上がった。

「ぼく、宿題やってくる」

「よし、がんばれ」

「うん!」

 元気に部屋へ行く息子を、お父さんは、微笑みながら見送っていた。

…父ちゃん、息子に甘いぞ…



 カラン…

 お父さんが振り向くと、お母さんが台所を仕切る玉暖簾の陰からそっと覗いている。

「なんだ、聞いていたのか?」

 お母さんはちょっと肩をすくめて見せた。

「男同士のお話みたいだったから」

 そう言いながら、お母さんが熱〜いお茶を差し出す。

「ゆきめ…親なんて、変なものだな」

 お茶をすすりながら、お父さんが言う。なんか、シミジミって感じ。

「子供が育っていくのが、うれしいのか、寂しいのか、判らない…」

 テーブル拭いていたお母さんも、ゆっくりと頷いた。

「何時の間にか、人の心を思いやるように成ったんですね」

「ああ、優しい子になってくれた。辛抱強いのは、君の遺伝かな?」

 お母さんってば、いきなり真っ赤になっちゃった。

「そんな…私なんて…あの子はあなたにそっくりですよ」

 そう言いながら、お母さんは嬉しそうだよ。

 まだ赤い顔で、そっと自分のお腹を撫ぜる。ぜんぜん目立っていないけれど、そこには雪介くんの兄弟が居るんだよね。

「この子も、雪介のように、優しい子になってくれるかしら…?」

「大丈夫だよ。俺と、君の子供だ」

 お父さんが力強く頷いた。

「あなた…」

 お母さんがお父さんを見つめる。

 お父さんもお母さんを見つめていて、二人はゆっくり近づいて…

 …こ・・ここからは大人の時間だね。

 お邪魔しましたーー









ヘビ付きの仁くん、なんか複雑な気持ちだけど、なんとなく、雪介くんや、光一くん達と一緒に遊んでいるんだ、変な奴。

そんな仁くん、ちょっと気になる所がある。

童守公園の近くにある廃ビル。

最近自殺の名所になっている、10階建てのビル。

学校じゃあ、行くことを禁止してるし、みんなも近寄らない。もちろん仁くんも、間違ったて行きたくない。

何しろ、仁くんには見えるんだ。

なにか黒いものが、べったりとビルに絡みついているのが…(そう、仁くんには厭なものが見えるんだ。これが、ヘビの理由其の一)

見るたびに、厭な予感がする。(ヘビの理由其の二)

大丈夫、大丈夫。

みんな、あのビルは見ないようにしているくらいさ。

君があそこに行くなんて、絶対に無いよ。









 人生の教訓。

 世の中に絶対は無い。

 そして、仁くんの予感は当たるってこと。







 その日、何時もつるんでいる6人組。仁くんを含めた、雪介くん、光一くん透くん。恵子ちゃんと天音ちゃんは、ぼんやりと歩いている年上の女の子を見つけた。

 ただ歩いているだけだから、変じゃないんだけど、変なのは、その後ろから、こそこそと隠れる様にして付いてくる、クラスメートの神崎宏志くんが居たからなんだ。

 6人は、勿論宏志くんに寄って行った。

 宏志くんが言うにはね。

 前を歩いているのは、宏志くんのお姉さんで、香子さん。

 中学受験に失敗して、ずっとふさぎ込んでいたんだって。

 で、この頃様子が変になったから、お母さんに言われて、見張っているそうだ。

 そんなの聞いたら、ほっとけないよね。

 にわかに発足した少年探偵団7人組は、目標の尾行を始めた。

 と……やばいよ、香子さん、廃ビルへ向かっているよ。

 ワ!!門に入っちゃった。

 子供達が門まで走ると、ふらふらとビルの中へ消えていくのが見える。

 うわ〜〜

「どうしよう…?」

 宏志くん真っ青だ。

「や…やばいよな?」

 透くん、声が震えているよ。

「うん、やばいよ」

 妙に冷静な声で、雪介くんが言う。

 じっとビルを見据えている。

「特に、7階の辺り」

 雪介くんが指差すと、仁くんがびくんとした。

 そう、仁くんにもはっきりと、黒い影が見える。

 そして、黒いものが襲いかかってくる未来も……

「だ…だめだよ!入ったら、絶対死んじゃうよ!!」

 涙声になって、仁くんが叫ぶ。

 途端に、宏志くんが泣き出した。

 恵子ちゃんも天音ちゃんも半べそだ。

 だけど、雪介くんは、大きく首を振った。

「でも、香子さんを助けなきゃ!!」

 拳を握り締めて、ビルの入り口を睨んでいる。

「お…おーし、判った。恵子、天音。ぬ〜べ〜呼んでこい!まだ学校に居るはずだ。宏志、お前は目印だ、ここで待ってろ。俺と雪介は上に行く。透、仁。お前らどうする?」

 リーダー格の光一くんがてきぱきと指示を出す。

 女の子達は、脱兎の様に走り出した。

 宏志くんは、泣きながらしゃがみこんでしまった。

「…透、悪いけど、宏志見てやっててくれよ」

 見かねた光一くんが頼むと、透くんは、ちょっとほっとした顔で肯いた。

「あ、うん判った」

 雪介君は、もう歩き出していた。

 両手を組んで何かぶつぶつ言っている。

「南無 大慈 大悲 救苦救難 広大霊感……」

 お父さんから習ったって言うお経。暗唱できるって、前に披露してくれたやつ。

 ひゅんって冷たい風が頬を撫ぜる。

 氷の匂いのする風を吸ったとき、仁くんは思わず言っていた。

「ぼくも行くよ!!」

 止めとけよ、膝が笑ってるぞ。

 雪介くん、うっすらと紫がかった目で仁くんを見つめる。冷たい空気に取り巻かれながら、にっこりと笑う。

「頼むよ、仁くん。行こう光一」

 3人は、ビルの中に入って行っちまった。やれやれ。







 お化けビル。幽霊ビル。自殺ビル。このビルに付けられた仇名は山ほどある。

 ほとんど悪口だけ。「陽明ビル」っていう、とても明るい名前があるなんて、玄関のプレート見たって信じられない。

 中に一歩入ると、なんだか生暖かくて、重苦しい、淀んだ空気がいっぱいだよ。         気持ち悪。

 雪介くんが作り出す冷気が、その空気を押し広げて、みんなに、前へ行く勇気をくれる。

 1階。香子さんは居ない。

 2階。ここにも居ない。

 3階。やっぱり、居ない。

 4階。上の方で、カタンと音がした。

 3人は音のした方へ、一気に階段を駆け上がる。

 5、6、もう1つ上で足音がする。

 雪介くんが、危ないと言った7階。仁くんが影を見ていた7階。

 ちょっとだけ顔を見合わせると、3人はそのまま駆け上る。

 思い切りは良いな、こいつら。

 7階に昇ると、奥の部屋へ、香子さんが入って行くのが見えた。そのままダッシュで追いかける。

 秘書室って書いてある部屋の中。香子さんに追いついた。やれやれ。

 始めに光一くんが跳び付いて、香子さんの手を引っ張った。

「香子さん戻ろう」

 でも、香子さん、そのまま奥のドアに進んで行く。

 ドアには消えかけた文字で、「社長室」って書いてある。

…あのドアの向こうに、何か居る!?

 仁くんには、あのドアが真っ黒に見える。

 ぎゅっと目をつぶって、仁くんは香子さんの手にしがみ付いた。

 光一くんも、仁くんも、懸命になって、香子さんを引っ張った。いくら3っつ年上でも、男の子が2人ががりで引っ張れば、足を止める位の力はある。

 でも、香子さんは、何も気にせずに、2人をずるずると引き摺っていた。

「2人共、退いて!!」

 お経を唱えながら、雪介くんが、香子さんの胸に両手を置いた。…おい…

「広大霊感 白衣観世音!破!!」

 お経と一緒に気合いを込める。

 仁くんには、雪介くんから出た光が、香子さんにぶつかって、絡み付いていた黒いものが弾き飛ばされるのが見えた。

「…あ…?」

 香子さんが立ち止まった。

 きょとんとして、周りを見ている。どうやら、正気に返ったらしい。

「ここ、どこ?あんた達、誰?」

「ここは幽霊ビルだよ。俺達は宏志の友達。宏志、下で待ってるから、早く帰ろう」

 息を切らせている雪介くんに代わりに、光一くんが早口でまくし立てる。

 幽霊ビルと聞いた途端、香子さんは小さく悲鳴を上げた。

「なんでこんな所に?」

「…引き寄せられたんだよ…奥の部屋の奴等に」

 どうやら息を整えながら、雪介くんが言う。

 そうなんだよな、居るんだよな、奥に。

 仁くんも感じてる。奥の大きな黒いもの。

 そいつはどんどん黒くなって行く。まるで集まってるみたいだ。

 やばいぜ。

「速く降りて。ここはぼくが押さえとく」

「雪介、無理すんな。一緒に降りよう」

 雪介くんが首を振るのと、ドアがドォンと音を立てるのが同時だった。

「きゃーー!!」

 香子さんが悲鳴を上げる。

 光一くんにも、雪介くんが、ドアを開けようとしている「奴」を、必死になって押さえているのが判った。

 証拠に、ドアがどんどん凍り付いていく。空気も冷たくなっていく。

「判った!!恵子達がもうすぐぬ〜べ〜呼んでくる。それまでがんばれ!」

 雪介くん、にっこり笑う。

「うん。光一も気を付けてね。仁くん、2人を頼んだよ」

 急に言われて、仁くんはきょとんとしてる。

でも、青い顔をしながらニっと笑っている雪介くんに引っ張られて、ニっと肯いた。

 そうそう、がんばれ男の子。







 3人が階段を降りていく音を聴きながら、雪介くんはポケットからブレスレット型の数珠を取り出した。

 左手首にはめて、両手を組み合わせ、白衣観音経を唱える。

 お父さんが「気」を込めてくれたお守りは、自分の冷気で冷え切った体を温めてくれる。

 どぅん!!

 再びドアが鳴る。

 ドアを封じこめた氷にひびが入る程、今度の衝撃は激しい。

「く!!」

同時に叩き付けられる、強い邪気に、雪介くんは歯を食いしばった。

「お前なんかに、負けない!!」

かっと両眼を見開いて叫ぶ。

 見る間にドアの氷が厚みを増し。ついでに床も天井も凍り出す。

…おい、無茶すんなよ…

社長室の妖気は、どんどん膨れ上がっているぜ。

それをここで食い止めて、3人が出口に着くまでがんばろうなんて、無茶すぎるよ。

でも、やっちゃうんだな。

お前は、そういう奴だよ。

おや?向こうの妖気とは別に、弱い妖気を感じるね。

この部屋の中からだ。

雪介くん、部屋の中を見回して、妖気の元を捜す。

あった。

妖気は、部屋の壁にかけられた鏡から出ている。

ドアから気を逸らさない様にして、雪介くんは鏡に近寄った。

古い木枠の地味な鏡。

近づくと、小さな声が聞こえてきた。

「おたすけ〜〜。おたすけ〜〜〜〜」

何なんだ?こいつ。







 階段を駆け下りながら、仁くんはがくがくと震えていた。

 しょうがないよね、仁くんには見えるんだ。

 出口近くで、黒い奴等に捕まってしまう、自分達の姿が…

 2階にさしかかって、仁くんはしゃがみこんでしまった。

「だめだよ!もうだめだ!!捕まっちゃうよ!!」

 泣きながら叫ぶ。

 光一くんがぐいっと手を引っ張った。

「バーロー!!こんな所で泣いてんじゃねー!!走れ!!」

 だけど、仁くんは首を振るだけ。

 光一くんはため息を吐いた。

「…何が見えるんだよ、言ってみろ」

 びっくりして光一くんを見ると、バツが悪そうにきょろきょろしながら、言葉を続ける。

「俺には何もみえないし、感じねぇけど、お前には見えるんだろう?教えろよ」

「…なんで、知ってるの…?」

 光一くんは鼻の頭を掻いている。

「雪介が言ってたんだ。お前には力があるらしいって。自分とはちょっと違うから、どんなのかは解らないけど。きっとあるってさ…黙ってて悪かったよ。お前気にすると思ってさ」

 俯いた仁くんは、消えそうな声で呟いた。

「みんなも…知ってるんだ…」

 もう駄目だ。仁くんは世の中が終わってしまう気分になった。

「言っとくけど、俺だけだぞ!!透や恵子達には言ってない!言うのはお前の口からだ!…言いたかったらだけど…」

 仁くんは、不思議そうに光一くんを見上げている。

 そうだよな、他人の秘密を知ってて、黙っている奴なんて、始めて見たんだもんな。

「何だよ、変か?俺達は妖怪親子と付き合ってるんだぜ。こんな事ぐらいでびびるかよ!!」

 光一くんは照れているらしい、少し顔が赤いよ。

「さあ!何が見えるのか、いえよ。」

 仁くんは、又俯いてしまった。

「だめだよ…変わんないんだ… ナナミちゃんだって…そうだったんだ…」

 仁くんは、ポツポツと話し出した。前の学校の事。

 君は、友達のお父さんが事故で死んじゃう事を、予言してしまった。

 大好きなナナミちゃんの為に、何時、何処で事故が起こるかって事を、詳しく話してあげた。

 そして、その通りに起こった事故。

 ナナミちゃんのお父さんは死んでしまったね。

 それからだよな、クラス中…学校中から怪物扱いされて、先生から避けられて、ナナミちゃんからは、人殺しとまで言われて。

 君は本当に辛い目にあったんだ…

 日記の始めの方に、書いてあった事。

 きっと、ここでも、同じ事が起こる。

 君はそう思ってる。

 光一くんは、怒った様に睨んでいる。

「だから…もう終わりなんだよ…出口に所で、ぼくらは黒い奴等に捕まっちゃう…で、3人ともビルから飛び降りて死んじゃうんだ。ぼくには見えるんだ!」

 これは、仁くんにとっては、確定した未来。

「バーロー!!それで、ハイそうですかって、死ねっかよ!」

 光一くんに、その未来は納得できない。あたり前か。

「でも、決まってるんだよ。ぼく見えるもの!いくら、雪介くんが、いいカッコしてがんばったて、だめなんだ!!」

…仁くんのヘビが動いた。

「雪介くんなんて、ずるいよ。妖怪だから、変な力があっても、みんなに納得してもらえててさ。いい子ぶって見せててさ。お父さん先生だから、悪いことする子も居なくてさ…」

「あほんだら!!」

 ダン!と光一くんは足を踏み鳴らした。

「お前がどう思っているかなんか、知るもんか!雪介は、お前に頼むtって言ったんだ!雪介は、俺達の事をお前に頼んだんだ!お前なら、俺達を守れるって、あいつは信じてるんだ!!」

 ヘビ付きの仁くん、ヘビと一緒にきょとんとした。

「わかんねーのかよ。未来が判るんなら、それを避ける事だって、出来るんだぜ」

「でも、ナナミちゃんのお父さんは…」

 びしっと光一くんの指が突き出される。

「大人が子供の言う事なんか信じるもんか!どーせ、腹の中で馬鹿にしてたから、そうなったんだ。俺は違うぜ。ちゃんと教えろよ。黒い奴、避けてやるから」

 仁くんはパチパチと瞬きをして、ゆっくりと微笑んだ。

 熱血光一くんの言葉が嬉しかったんだね。

「光一くんってすごいね〜、強いんだね〜」

 やっと階段を降りながら、仁くんが言うと、光一くん、困ったみたいに肩を竦めた。

「ま…まあな。こう見えても、お前らより1つ兄貴だからな、しっかりしてねぇと、笑われるからよ」

「え?」

「帰国子女って知ってるか?2年の時に、日本に帰って来たんだけどよ。日本語が解らなくて、1年に入り直したんだよ。んで、同い年の奴等に、スゲー馬鹿にされてたんだよ」

 人の事情ってのは、色々あるね、仁くん又びっくりだ。

「そうなんだ…」

「雪介だってそうだぜ。あいつ、去年まで、すげー苛めかたされてたんだぜ」

「え!?だって…」

「今は、みんなから、一目置かれてるってか?嘘じゃねーって、苛めてたのは、俺なんだから」

 仁くん、又立ち止まってしまった。

 そうだよな、今のこいつからは想像つかないもんな。

 光一くん、ちょっと恥ずかしそう。

「俺さ、妖怪って悪者だと思ってたんだ。それに、同い年からスゲー馬鹿にされてて、腹が立ってたんだ。だから、雪介に、色々ひどい事したんだ」

 ああ、覚えているよ、君の苛めっぷりはすごかったよな。

 ランドセルは砂だらけだし、靴の中には画鋲がいっぱい。交差点では突き飛ばす。そして、数限りなく投げつけた、言葉の暴力。

 雪介くん、よく生きてたよ。

「雪介は、そんな俺を命懸けで助けてくれたんだ」

 あれは、すごい事故だったよな。

 雪介くんを突き飛ばそうとして、逆に転がり出た交差点で、光一くんを避けようとしたトラックが横転して、積み荷の太い鉄パイプが崩れてきたんだ。

 雪介くんは、まだ使いこなせない冷気と、自分の体でそれを食い止めた。

 おでこに、5針も縫う傷を作りながら…

「俺、自分が情けなかったよ。年下のあいつ苛めて、いい気になってた自分がさ。雪介なんて、どんな目にあっても、とーちゃんに言いつけたり、俺を怨んだりする事しなかったのにさ」

「そうなんだ…」

「仁はさ、化け物って言われたら、違わいって言えるだろ?」

急に聞かれて、仁くんは慌てて肯く。

「うん!ぼく、人間だもの」

「雪介はさ、うん、そうだよ。って言うしかないんだぜ」

「あ…」

 仁くん、胸がズキンとした。

 自分が一番言われたくない言葉なのに、雪介くんはどんな気がするんだろう?

「俺さ、もう2度とあんな、情けない気持ちになりたくないんだ。だから、雪介を助ける事だったら何でもする。今は、ぬ〜べ〜呼んでくる事だ。あいつ等に捕まってたまるか」

 仁くんの心の中で、ヘビが小さくなっていく。替わりに、なんだかすごく悔しい気分になってきた。

 悔しいのは自分。嫌なのは自分。

 こんな気分は初めてだよね。さあ、どうしたらいい?

「光一くん。黒い奴は、入り口の前ぐらいに溜まっていて、…右から、ぼくらを捕まえようとするんだ。その次は左。でも、それを避けても、奥にもう一つ、黒いのが待ち構えてる…」

「その後は?」

「わかんない、ぼく、その先は見えない。最初の奴に捕まって、ビルから飛び降りる未来しか見えない…」

「OK、左に逃げて、右に行って、そんで後はどっちかなんだな、よーし」

光一くんが肯く。

「ねえ、いいかげんにして、はやく出よう。すごく寒いわ」

 香子さんが震えながら言った。

 何時の間にか、すごく寒くなっていて、見上げると、6階から上が、霜で真っ白になっている。

「雪介、無茶してるな…はやく出よう。俺達がぐずぐずしてると、あいつ死んじまう」

 3人は階段を駆け降りはじめた。

 1階の廊下を曲がって、出口が見えた。

 やっぱり居る!!

 仁くん、膝が笑い出した。恐いよな、そうだよな。

「仁、見えるか?」

「う…うん」

「動いたら、教えろ。はじめは真ん中に見せかけて、左に逃げる。いいな?」

 光一くんを先頭に、香子さんを真ん中にして、出口へ走る。

 影がゆらりと動いた。

「来た!!右だ!!」

 そう、見た通りだったね。

 光一くんは香子さんの手を引っ張った。仁くんも、香子さんにしがみ付いて左に押す。

 影の手が3人の横をかすめていく。

「何すんのよ!!」

 香子さんが怒っているけど、説明している暇なんて無い。

 すぐに影のもう一方が動く。

 光一くんは何も言わずに、右へ引っ張る。仁くんも力いっぱい押す。

 2回目もどうやらやり過ごせた。

 でも…

 仁くんの目に前には、右にも左にも行けない程、真っ黒い影が広がっている。

「うげ!?」

 光一くんが唸る。どうやら、奴が濃くなりすぎて、光一くん達にまで、見えたみたいだ。

 香子さんが小さな悲鳴を上げた。

 全身の肌が逆立つ気がする。

 仁くんは、目を開けたり、先を見ようと目を閉じたりした、でも、何もみえない。黒いものが広がっているだけ…

「ヤダ、こんな所で死にたくない!!」

 仁くんが叫んだ。

 同時に誰かが影を切り裂いた。

「哈!!」

 気合とともに、影は、鋭い爪にずたずたに裂かれて消えていった。

 その向こうには、異様な左手を曝して、身構えている男の人。

「ぬ〜べ〜!!」

 光一くんが叫んだ。

「遅くなってすまない」

 仁くんは、恵子ちゃんから聞かされていた、鵺野先生の鬼の手を、まじまじと見つめていた。

 そして、子供達の無事な姿を見てにっこりする先生に、なんとなく、自然にしがみ付いていた。

 おんおん泣き出した子供達を抱きしめてやりながら、鵺野先生は、一人足りないのに気がついた。よりによって、自分の息子が居ない。

「雪介はどうした?」

「な…7階。俺達を逃がす為に、1人でがんばってる。早く行ったげて!」

 ぐいぐい涙を拭きながら、光一くんが言う。

「よし。みんな、ビルから離れていろ!いいな」

「こっちは大丈夫。仁が居るから、黒いのから逃げられるよ!」

 光一くんに言われて、仁くんも大きく肯いていた。

「うん!!ここは任せて!」

「判った!」

 鵺野先生は、ビルの中に駆け込んでいった。

 先生の後姿を見ながら、仁くんは、ぎゅっと口を引き結ぶ。

 自分で任せてと言ったんだ、ここで弱気にはなれないよな。

「みんな、門の外まで出て!あいつら、あそこから先へは出てこないから!」

「おう!」

「うん」

 3人は、門から覗いているみんなに向かって走り出した。







 鵺野先生は、一気に階段を駆け上がる。

 既に5階までが霜に覆われて、真っ白になっている。

 さらに上の階は、僅かな光に青く浮かび上がる氷が、厚く層を作りはじめている。

 あのちっちゃい体で、これだけの氷の結界を作ってしまう。

 桁外れに高い雪介くんの霊力は、まだ制御が利かないんだ。

 おかげで、目標以外のものまで全部が氷漬けになる。

 でも、雪介くんの体は人間だから、何時までも氷の中に居たら死んでしまう。

 滑りやすくなった階段に気をつけながら、先生は、走るスピードを上げた。







 どうん!!

 今までに無いほどの強い力で、ドアが鳴った。

 鏡に向かい合っていた雪介くんが、はっと振り向いたのと、ドアを覆っていた氷  が、粉々に砕け散って、バタンと開くのが同時だった。

 黒い鉄砲水の様に、邪悪な影が吹き出して、雪介くんを襲う。

「えい!!」

 咄嗟に氷壁のバリアーを張って、弾き返す。

 でも、ここら辺が限界だ。

四方八方に撒き散らしている力は、黒い奴を氷の結界に閉じ込めてはいるものの、雪介くんの体力をどんどんもぎ取っている。

 それに、氷で冷え切った体は、もう思う様に動かすのも辛いんだ。

 それでも、何とか両足を踏ん張って立っていた。

 雪介くんの周りには、冷気を受けて重さを無くした、この部屋の家具が浮いている。

 ぐっと影を睨むと、漂っていた椅子や机なんかが、びゅんびゅんと影に向かって飛んでいく。

 だけど、影にはぜんぜん効いていないみたいだ。ドアの向こうから、どんどん湧き出て来て、黒さを増している。

「坊ちゃん、もう逃げてくだせぇ〜〜」

 鏡が言う。

「あっし達の為に、命を落とすこたぁございやせんぜ」

…なんか、大時代な喋り方する奴だな。

「だめだよ!!」

 雪介くんは、ブンブン首を振る。諦めるなんて、雪介くんは知らない。

「もうすぐ、とーさんが来るもん。それまで、がんばれよ!」

 叫んだとき、氷にひびが入った。

 氷壁のバリアーを破って、黒い奴等が雪介くんに襲い掛かる。

 両手を突き出してバリアーを張ろうとしたけれど、奴等のスピードが速すぎて間に合わない。

 もう駄目か?

 誰かが、凍り付いた廊下側のドアを蹴破った。

 白く光る経本が伸びて、雪介くんの体を包む。

 白衣霊縛呪。

 影が悲鳴を上げて引っ込んだ。

 低い声で唱和される白衣観音経とともに、眩い霊水晶の光が、部屋の中を照らす。

「とーさん…」

「雪介、無事か?」

 がっしりとした腕に抱き上げられて、暖かいお父さんの体に触れた途端。今まで我慢していた涙が、いっぺんに吹き出してきたよ。

「とーさぁん!!」

「よしよし、よくがんばったな、雪介」

 しっかりと雪介くんを抱き上げて、奥のドアまで後退した影を睨み据える。…と、後ろにある鏡に気が付いた。

「こいつは?」

「…時逆と時順っいう妖怪だよ。あいつ等に捕まっているんだ。助けてあげて」

 しゃくりあげながら、雪介くんが言う。鏡からも声が聞こえてきた。

「お助けくだせ〜〜あいつ等、あっし達の力で、過去に戻るってきかね〜んでさぁ〜」

「過去に戻る?」

「あのね、時逆達は、時間を行ったり来たり出来る妖怪なんだ。あいつ等、それで、人生をやり直したいんだって」

 雪介くん、仁くん達が身の上話のし合いをしてた時、君は妖怪の身の上話を聞いていたのか。付き合いの良い奴。

 鏡から、もう一つ別な声が聞こえる。

「霊体じゃ無理だって言ったんだよ〜〜そしたら、人間おびき寄せて、自殺させ始めたんだよ〜〜体を獲るために〜」

 うーん…なんて質が悪いんだろう・・

 時逆達と雪介くんの説明を聞いて、先生は肯いた。

「そうか…あさましい奴等だ…」

 執念だけで寄り集まった悪霊の集団に、ゆっくりと鬼の手を突きつける。

「もはや、人間としての意識すら、残っていない様だな」

 影が唸る。地獄の底から響いてくるみたいな、異様な声だ。

 雪介くんは、ぎゅっとお父さんにしがみついた。

 悪霊がのたうつ様にしながら、鵺野親子に向かって襲い掛かってくる。

「哈!!」

 絡み付こうとする触手のような影を、鬼の手が切り裂く。

 何度か影の攻撃を切り捨てると、影は再び奥のドアまで引き下がった。

 影がどんどん集まっていく。

 もやもやとした影が、次第に硬くしまり、四本の足をトカゲの様に床につけた、大きな人間形になった。

 首が奇妙な形に折れ曲がって、のっぺら坊の顔が正面を向く。

 真っ黒い大男は、平たい顔でにやりと笑った。

 見る間に口が左右に裂けて、ワニのような歯が見える。

 目のあたりの落ち窪んだところに裂け目が出来て、血をぼたぼた垂らしながら、真っ赤な目が開かれる。

…グロイよ、あんた…

 ん?何か言ってる。

「……こせ…体をよこせ…」

 やれやれ

 耳まで裂けた口から、ヘビのような舌をちろちろと覗かせて、悪霊は、糸のねじれた操り人形って感じの気味の悪い動作で、頭だけで部屋中を見渡す。

 カクカクしながら、360度一回りして、再び鵺野親子を見ると、

「クケケ」

喉の奥から奇声を上げて、いきなり掴み掛かって来た。

 その動きってのが、まるで人の形をしたクモ。

 どこまでもグロイ奴。

 でも、悪霊の腕よりも一瞬早く、鬼の手が繰り出され、黒い腕を引き裂く。

「グアァァァァァァァァァ」

 襲ってきたときと同じくらいの素早さでバックして、悪霊は裂かれた腕を、不器用に振る。

 うげ。

 何筋にも裂けた腕は、肘から分かれて、何本もの腕になった。なんてこった。

「だめだ。奴は不浄霊の集合体。何度攻撃しても、分裂し、補い合うだけだ」

 鵺野先生も悔しそうだ。

 雪介くんは、不安いっぱいでお父さんにしがみ付いている。

 これが、さっきまで悪霊に一歩も退かずに渡り合っていた子供かね?って言いたいくらい、お父さんにべったりだ。力を使う事すら止めているから、周りの氷も徐々に融け出している。

 せっかく張った氷の結界がどんどん薄くなっていく。

 結界が破られたら、外の子供達も危ないよ。鵺野先生にはそれが判っている。だから焦っている。

「雪介、時逆達と一緒に居ろ。一気に片をつける」

 去年までなら、「やだい」って駄々捏ねていたけど、さすがに3年生だ(もうすぐお兄ちゃんにもなるしな)、ぎゅっと一回しがみ付いて、おとなしく下に降りた。

「とーさん、気をつけてね」

 心配する息子に、にっと笑顔を見せて、悪霊に向き直る。

「南無 大慈 大悲 救苦 救難…」

 鬼の手を構えつつ、自由になった右手で、霊水晶を翳す。

 眩い光が辺りを照らす。

 悪霊の奴、光に怯えて、ざざっと後ろにさがった。

 詠唱を続けながら、ずいっと前に出ると、悪霊はどんどん後ろにさがって、奥のドアの向こうに引っ込んでしまった。

 鳴りをひそめて、こっちの動きを伺っているよ。隙を見せたら、すぐにでも襲い掛かってくるんだろうな。しつこそうだしな。

 ん?

 悪霊の後ろで、何かが光った。

 黒い光、とでも言ったらいいのかな?実際に見える光じゃない。霊感に感じられる、霊水晶の光の、黒い反射光…

 それは、悪霊の後ろのほう、実体がほどけて、底無し沼みたいな影が溜まっている辺りで光っている。

 しかも、そこから吹き出している邪悪な気は、すさまじいほどだ。

「あれが、中心か……一か八か……」

 黒い光に向けて、霊水晶を投げつける。

 光に押されて、悪霊が2手に別れた。鬼の手を構えて、そのまま影の中へ突っ込む。

 突然勝負に出たお父さんに、雪介くんは息を呑んだ。

 奥に向かって走るお父さんを、裂けた波が戻るように、包もうとする黒い影、しかも、その先端は、無数の手が鷲掴みにしようと指を広げている。

 影が鵺野先生を取り込むのが早いか,中心を掴むのが早いか?

 駄目だ、影のほうが早い。

 雪介くんの全身が粟立った。

「南無…観音様、とーさん守って!!」

 もうお経を詠んでいる余裕なんか無い。

 雪介くんは、全身の力を振り絞って、氷壁バリアーを張った。

 氷の壁が、先生の左右を走る。氷壁が、影を完全に2分すると、目の前に、崩れかけた、ぼろぼろのマホガニーの机が現れた。

 光はその中から出ている。

「哈――!!」

 気合諸共、鬼の手は机を突き抜けて、光を掴んだ。

 小さな、硬い感触の「それ」は、鬼の手の中からでも邪気を出し続けている。

「無に還れ!」

 力を込めると、「それ」は、手の中でゴキゴキと音を立てて砕けていく。

 断末魔の絶叫が響き渡った。

 現世に留まるために、依り代となっていた物が無くなったから、消滅していくんだ。

 虚空の様に真っ黒だった部屋の中から、少しずつ影が消えていく。

 煙が吹き散らされていくみたいに、影が消えてしまうと、鵺野先生はゆっくりと立ちあがった。

 もう、粉々に砕けてはいたけれど、片方の先端に付いている赤い色で、これが印鑑だった事が判る。

 印鑑が伝えた記憶は、哀れだったよ。

 バブルが弾けた時、この会社は倒産してしまった。最後の資金も持ち逃げされて、社長さんがここの窓から飛び降りたんだ。

 恨みを込めた社長さんが握っていたのが、この印鑑だった。

 以来、怨念とともに、ほかの霊を取り込みながら、体を手に入れて、過去に戻って、この会社をもう一度立て直そうとしていた……

 先生、茶袋を思い出しているね。そう、過去なんて、変えられる訳が無いんだ。

「どうせ変えるなら、未来にしろ…」

 もう一度印鑑を握り締めて、本当の粉にしてしまってから、紙に包んでポケットにしまう。

 そうだね、これだけの怨念が篭っていたんだもの、封印しておいた方が良いよ。

 先生が左手に手袋をはめていると、後ろから、汚い悲鳴の2重奏が飛んできた。

「坊ちゃん!!」

「しっかりして〜〜」

 振り向くと、2枚の鏡に、それぞれ手足の生えた正体を顕わした時逆達が、ぐったりとした雪介くんを左右から抱きかかえて、おろおろしている。

「雪介!!」

 いそいそで戻ってきた鵺野先生は、雪介くんが気絶しているだけなのを確かめて、大きくため息を吐いた。

「まったく、無茶しやがって…ありがとう、雪介、助かったよ」

 大事な一人息子を抱き上げて、鵺野先生は優しく微笑んだ。







 7階を取り巻いていた黒い影が、一つの窓に向かって吸い込まれていくのを見た時、仁くんには、黒い巨人が鵺野先生を捕まえる姿が見えて、背中がぞっとした。

 影は小さくなっているけど、重い妖気は、ずっと濃くなっているからなんだ。

 7階を見上げながら、ガタガタ震えていると、両脇に、光一くんと恵子ちゃんが、何も言わずに立った。2人とも、仁くんと同じ様に、7階を見上げている。

「ぬ…ぬ〜べ〜に任せておけば、大丈夫よ!」

 怒ってるみたいな声で、恵子ちゃんが言う。

「言ったでしょ?妖怪親子は、頼りになるって」

 強がってても、恵子ちゃんの声は震えている。

 小さくなっていた仁くんのヘビが、また動く。

「恵子ちゃんも恐いんだ…あんな奴、鵺野先生でも適わないよ…ぼく、未来が見えるんだ。あの黒い奴だって見えるんだ…恵子ちゃんには、ぼくも妖怪だよね…」

 そういった途端。

 ゴン!!

 後頭を思いっきり殴られた。

「仁!!てめぇ、まだ言ってやがんのか!?」

 光一くんの罵声が降ってくる。

「いいか!?もう一遍だけ言ってやる!!見える未来ってのはな、変えるためにあるんだよ!」

 頭をさすりながら、仁くんは目をぱちくりした。

「未来を変える?」

「そーだよ、お前が悪い未来を見たら、その未来にしなけりゃいいじゃんか」

「え〜!?仁くん、未来をカンニングしてるんだ。…今度のテストの問題見える?」

…恵子ちゃん…

「ねえねえ、あたしのお婿さん、見て?」

 天音ちゃん…

「妖怪親子と付き合ってて、そんなの怖がる奴居ないよ」

 透くん、君はまともだね。

「みんな…」

 仁くんのヘビがどんどん小さくなっていく。

「いいか、未来を見たら、俺達に言えよ、ちゃんと避けてやるから」

「うん!!」

 ヘビが消えた…いいや、うんと小さいのが逃げていくけど、これくらいなら、誰の心にも居る奴だ。

 あたりを震わせて、悲鳴が轟いた。

 仁くんが思わず蹲ると、みんなが不思議そうに見ている。

 そう、君にだけ聞こえたんだ。

 仁くんの顔が、ぱっと明るくなった。

 あれは、悪霊の悲鳴。悪霊が消えていく悲鳴。

 もう、妖気も、影も、どこにも無い。

「鵺野先生が勝ったよ!!」

 みんな、飛び上がって歓声を上げた。

 ぐったりと気絶した雪介くんを抱いた先生が入り口から出てきた時、みんな一斉に駆け寄った。

 仁くんも走る。今度こそ、本当の友達として。







 さてと、そろそろ、話す事も無くなってきたな。

 あれから6人組は、子供達だけでビルに入った事を、鵺野先生から一応怒られたけど、おかげで香子さんが助かったんだから、まっいいかーって事になった。

 雪介くんも、次の日には元気いっぱいに戻ったし、仁くんのヘビはもう動かない、と思う。

 日記も普通になったしね。

 そうそう、変わった事といえば、童守小に鏡が一枚増えたって事かな?

 雪介くんに助けられた時逆達は、自分達は雪介くんのペットになるんだって、勝手に決めちゃって、童守小に住み着いたんだ。

 ついでに、鏡占いなんてのを始めちゃってさ、これがよく当たるって評判になってる。

 時逆達のお陰で、仁くんの力も目立たなくなってさ、ま、これもいっかなーって感じ?

 そんなこんなで、何時も通りの時間が過ぎていく。

 いいねー、こういうの。

「おい、お前。まだ迷ってるのか?」

 う…鵺野先生。こんにちは。

「事故で卒業できなかったからって、何時までも浮遊霊してると、変な奴に取り憑かれるぞ。この間の廃ビルでも、危なかったんだぞ」

 はい、それは判ってます。

「何だったら、俺が経文詠んで、成仏させてやろうか?」

 い、いえいえ、それには及びません。気が済んだら、成仏しますから。

「そうか?その気になったら、遠慮しないで来いよ」

 お気遣いどうも〜〜〜〜

…ふう…

 ま、そういう事。

 以上、浮遊霊レポートでした。



END